解決事例②ひき逃げ(救護義務違反)で不起訴処分

救護義務違反(ひき逃げ)ということで突然逮捕されてしまった事案

【依頼前の状況】

突然警察が自宅にやってきて,「救護義務違反(ひき逃げ)で逮捕する」と家族を連れて行ってしまった。警察は,家族にも詳しい話はしてくれず,家族としても何が何だか全く分からないという状況で相談に来られました。

【依頼を受けてから】

「どうやらひき逃げで逮捕されたらしい」ということくらいしかわからない状態でしたので,まずは本人の拘束されている警察に赴き,詳しく話を聞くことにしました。

逮捕されるとき,警察は詳しい事情などは教えてくれないことが多く,家族は意味の分からないまま不安ばかりが募るということが多いです。

逮捕直後は基本的に弁護士以外は本人と面会ができません。通常,突然逮捕されてしまった場合,本人としても突然の逮捕に驚きつつ,冷静さを保てないまま,それでも取調べはどんどん進みます。

今どういう手続き中なのか,サインを求められている書面は何の書面なのか,そういうことを理解できている場合は圧倒的に少ないのが実情です。

その中で,警察から色々と言われ,流されるままに書面にサインなどしてしまう場合も多く,初めの段階でサインしてしまった書面が,後に決定的な証拠とされてしまうこともよくあります

そして、裁判官などは、そういう状況下でついサインしてしまうような心理状態について理解してくれない場合が多いというのが弁護士としての率直な感想です。

「そんなことを言っていますが、自分の意思でサインしたんですよね」と冷たくあしらわれるのがデフォルトと思っておいていいでしょう。

そういう事情もあり,逮捕直後はとにかくまず本人が弁護士と話をして、状況を理解し何をすべきかを理解すること,どういうことをしてはいけないかの確認がとても重要です。

今回も,できるだけ早く警察署に向かい,本人と話をしました。詳しく話を聞いたところ,本人は,「ひき逃げなんてとんでもない」「人をはねたことなど全くしらない」「なぜこんなことになっているか分からない」ということでした。

後から判明するのですが,このケースでは,事故自体は発生していました。ただ,この事故は,自転車が横から車の左後方部分に突っ込んできていただけであって,運転手の視界から完全に外れた部分で発生した事故であったので,本人は「何か音がしたな」くらいの認識しかなかったのです。

人がケガをしたことを認識しつつ,救急車を呼ぶなどしなければ,それは「救護義務違反(ひき逃げ)」になってしまいます。しかし,人がケガをしたことなど全く気付かず,そのままその場を離れただけでは「救護義務違反(ひき逃げ)」にはなりません。

だからこそ,「人がケガをしたことには気づいていなかった」といい続けることが最重要なのです。

しかし,このような状況の場合でも,警察はこちらの言い分に聞く耳を持ってくれることは少ないといえます。

警察は,「とにかく自白をさせる」ということを重視します。「人をはねたことなどない」,「知らない」といくら説明しても,「嘘を言うな」,「正直に言え」,「気付いていないはずは無い」というようなかたちで,こちらの話を聞かないというケースがよく見られます。

実際,人をひいてしまったことが分かっているのに,しらばっくれるケースもあって,警察としてはそういう嘘つきを絶対に逃がさないという思いもあるのかと思います。

ただ,それはまた別の話であって,本当に知らない・本当にやっていない人にとっては,本当のことを話しているのに嘘つき呼ばわりされてしまうことになり,いい迷惑です。

そういう事情もあり,「やっていない」ことを「やっていない」,「知らなかった」ことを「知らなかった」と分かってもらうのは意外と困難です。

警察沙汰などと無縁の生活をされている場合には想像しにくいかもしれませんが,令和の時代でも,依然として,警察官の勢いに負けて,やってもいないことについて自白してしまうという状況が頻発しているのが現状です。

この方は,幸いにも,「知らないものは知らない」と根気強く言い続けることができていました。私からも,「気付いていたかもしれない」というような調書に署名押印してしまうと,人にケガをさせたことに気付いていながら逃亡(=ひき逃げ)したことになってしまう,一度そういう調書に署名押印すると,今後その内容を覆すのは非常に困難なことなどを説明し,自分の考えや記憶と異なる調書への署名押印は絶対にしないように,更なる念押しをしました。

同時並行して進めなくてはならないのは,早期釈放への対応です。

裁判官は,対象者が逃げないか,証拠隠滅をしないかということを大きな要素として,さらなる身柄拘束の必要性を検討します。

そこで,家族の方に身元引受人になってもらい,裁判官に書面を提出しつつ,「本人は逃げたりしない」し,「証拠の隠滅などやりようがない」ことなどを説明し,釈放しても大丈夫ということを理解してもらう必要がありました。今回のケースでは,そういう対応も功を奏して,10日間の身柄拘束(勾留)という事態を避けることができ,一泊二日ほどでの釈放になりました。

釈放になった後も,今度は警察署に通う形で取調べは続きましたが,ご本人の頑張りで,最後まで,「知らないものは知らない」という話を貫き通すことができ,最終的には,嫌疑不十分という形で不起訴処分を勝ち取ることとなりました。

【更なる問題】

この事案では,ひき逃げで逮捕されてしまった場合の「刑事事件としての対応」を紹介しました。

交通事故の加害者を疑われたり,実際に加害者となってしまった時は,主に3つの問題を考える必要があります。それは「刑事事件」「運転免許証」「民事事件」の各問題です。

「刑事事件」としての問題は,罰金刑や懲役刑になるかどうかというもので,今回紹介したような内容です。

「運転免許証」の問題は,免許取消し・免許停止などの処分がどうなるかというものです。

「民事事件」としての問題は,被害者への賠償をどうするかというものです。

これらは複雑な問題が多々あります。

今回のように,「刑事事件」としては嫌疑不十分となって疑いが晴れたのに,「運転免許証」に関しては免許取消し処分のままであり,いくら刑事事件として嫌疑不十分になったと説明しても,免許証が戻ってこないなどということはよくあります。

この辺りについては,またの機会に紹介させていただきます。

解決事例①窃盗症(クレプトマニア・病的窃盗)による再犯で再度の執行猶予  

執行猶予中の再犯で,再度の執行猶予判決となった窃盗症(クレプトマニア)事案

【依頼前の状況】

お金は十分にあり,食べ物に困っているような状況でもない。

そのような状況下で,過去に何度も万引き(窃盗)をしてしまう。何度も逮捕され,執行猶予判決を受けていた。

そのような方が,その執行猶予期間中に,再び万引きで逮捕されたとのことで,ご家族がご相談に来られました。逮捕された方は,拒食症等の症状もあり,体調にも不安があるため,このまま長期間,留置場での生活をすると体力的にも心配という状況でした。

【依頼を受けてから】

まずは早期の身柄解放が必須であると考えました。

そこで,ご家族の方々に,身元引受け書や,家族で面倒を見るという宣誓書などを用意してもらい,それを持って,私から,裁判官に「本人が釈放されても家族が面倒を見る」ということなどを中心にアピールをしました。その結果,検察官の勾留請求はみとめられず,警察署に一泊しただけで釈放となり,まずは自宅に戻ってもらうことができました。

早期釈放が叶ったのは,家族の方が,逮捕されて早々に相談に来ていただいたおかげで,裁判官が勾留決定(10日間留置場にいなさいという決定)をしてしまう前に,裁判官を説得できた,これに尽きます。

警察署の留置場に少なくとも10日間入るのと,1泊だけで出られるのでは,仕事面・健康面などあらゆる面で大きく異なるであろうことは明白です。

ただ,一旦釈放となっても事件は終わっていません。

今回のケースは,執行猶予中に同じ罪を犯してしまった(執行猶予中の再犯)というケースであり,このまま反省だけを述べて裁判を受けても,実刑判決(刑務所行き)が出る可能性が高いケースです。

今回のケースでは,

「特にお金に困っていない」

「刑務所行きになるということが分かっていても,盗りたいという思いを止めることができない」

「拒食症の症状がある」

というような事情がありましたので,単純に物欲しさによる窃盗ではないということが明白でした。加えて,過去に私が見てきた窃盗症を患っている方々との共通点も多々あったことから,この方も窃盗症(クレプトマニア)なのではないかと考えました。

そうはいっても,医師ではない私が勝手に窃盗症(クレプトマニア)を疑ったところで確証がありません。まずは専門医に診てもらう必要があります。

しかし,窃盗症を専門にしている精神科医の数は,患者の数に比して極めて少なくで,ようやく医師を見つけたとしても,予約がいっぱいで,なかなか診てもらえないというのが実情です。

そのような中,なんとか専門医を紹介し,診てもらうところまでこぎ着けたところ,やはり窃盗症(クレプトマニア)という診断が出ました。そこからは,週に一度の「通院」・「自助グループミーティングへの参加」・「家族同伴以外では外出させないような仕組みづくり」などを徹底してもらうようにしました。

その後に始まった刑事裁判では,そういった治療内容や,再発防止に向けた取り組みなどを報告書にまとめて提出し,加えて,ご家族にも裁判所に出てきてもらい,証人として裁判官の前で,徹底した監督を約束してもらうなど,できることは徹底的に行いました。

そういった活動が奏功し,執行猶予中の再犯でありながら,「再度の執行猶予判決」を勝ち取ることができました。

判決で,裁判官が「できることはやり尽くしている」と評価してくれたことが印象に残っています。

この方は,判決後も治療行為や再犯防止策をを継続しており,判決から数年経過していますが,今も平穏に暮らしておられます。

もっとも,窃盗症(クレプトマニア)は,完治が難しいとされ,とにかく継続した治療が重要と言われています。実刑を回避でいたからといって,気を抜くことなく,治療に励んでいただきたく思っています。

【窃盗症にまつわる更なる問題】

窃盗症(クレプトマニア)をめぐる刑事事件は,問題点がかなり多いというのが実情です。

「裁判の時に,せっかくもらった診断書を裁判官に見てもらえないことがある」

検察や警察は『窃盗症』という病について,極めて限定的に捉えている」

という事情などは,いざ当事者となると,嫌というほど大きな壁となって立ちはだかります。

これらの問題点については,またの機会に紹介させていただきます。

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