交通事故被害 慰謝料増額のからくり

同じ条件の事故被害でも慰謝料が変わるのは何故か

入通院慰謝料には,3種類の基準があるというのは「交通事故被害 慰謝料の決まり方」で説明した通りです。事故の相手が任意保険に加入していたならば,関係してくる慰謝料の基準は「任意基準」と「裁判基準(弁護士基準)」です。

「任意基準」とは,任意保険会社独自の慰謝料算定基準であり,「裁判基準(弁護士基準)」とは,被害者側が裁判で理想的に勝てた時の基準のようなものです。「任意基準」は「裁判基準(弁護士基準)」と比べると,ほぼすべての場合で相当程度低額となります

弁護士を付けずに,被害者が直接,相手の保険会社と話をしているとき,相手保険会社が算出してくる慰謝料はほとんどの場合で「任意基準」に則ったものになります。

では,なぜ保険会社は安い方の基準で慰謝料を算出してくるのでしょうか。

それは支払い額(支出)を下げるためであろうことは容易に想像できます。企業等が支出を少しでも低くするために努力する,それ自体は非難できるものではないのかもしれません。

弁護士に依頼すると慰謝料が増額する理由

弁護士に依頼すると慰謝料が増額する理由,それはひと言で言うならば,弁護士が出てきた時点で,訴訟が前提になるからということになります。

保険会社側も,「裁判基準(弁護士基準)」は当然に熟知しています。裁判を起こされたら,これくらいの支払いは避けられないと理解しています。

被害者の方が弁護士を付けずに,個人で保険会社と交渉しているうちは,とりあえず訴訟前提の基準よりは低い基準(=任意基準)で計算しておこう,そして,弁護士が出てきたら,本当に訴訟を提起されるかもしれないので,ある程度金額を上げよう,そういう感じなのかもしれません。

ただ,弁護士が出てきても,いきなり 「裁判基準(弁護士基準)」 まで引き上がるかとなると,そう簡単にはいかない場合がほとんどです。

「裁判基準(弁護士基準)」 は,あくまでも被害者側の要求が理想的に認められた時の基準であるということで,保険会社からすると,「裁判でかなりボロ負けしたときの額」という印象でしょうか。

さすがにそこまでボロ負けするとは限らないと考えるでしょうし,その他,実際に訴訟までするとなると半年から1年間程度はかかることも多いため,被害者としても負担が大きいという事情もあって,裁判まではしてこないのではないかと考える場合もあるでしょう。

実際,裁判をしても,裁判基準までは受け取れ得ない場合も多々ありますし,何よりも,裁判が終わるまで(半年から数年),慰謝料等が受け取れないという点で被害者としても厳しい側面があります。

それならば,裁判基準(弁護士基準) までは支払えないが,それに近いところで合意しませんかという話になったりすることもあります。

ただ,そのような場合でも,弁護士を入れずに保険会社と交渉している場合と比べると,受取額は段違いに上がることが多いというのが実際のところです。

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交通事故被害 慰謝料の決まり方

話題① 慰謝料に基準が複数あるのはなぜ

交通事故の慰謝料について調べてみると,何やら基準が,大きく分けると三つほどあることが分かると思います。

「裁判基準(弁護士基準)」,「任意基準」,「自賠責基準」などと呼ばれており,ひとつの同じ事故被害なのに,支払い基準(=支払額)が変わってくるようです。どういうことなのでしょうか。

・そもそも「慰謝料」とは

その前に,「慰謝料」とは何かというところから説明が必要かと思います。「慰謝料」とは,「精神的苦痛に対する賠償金」のことです。ただ,精神的苦痛に対する賠償金といっても漠然としすぎていて,算定しようがありませんので,交通事故の場合は,主に「後遺障害慰謝料」と「通院慰謝料」とに分けて考えるのが実務になっています。

「後遺障害慰謝料」は,認められた等級に応じて支払われる慰謝料です。「後遺障害慰謝料」にも数多くの問題点がありますが,今回は以下の「通院慰謝料」に絞ってお話をすることとします。

「通院慰謝料」は,その言葉からすると,「通院することのつらさ・煩わしさなどに対する慰謝料」という響きですが,実際はもっと広く「事故によって生じた痛み・苦しみ」「事故に関連して発生した手間」なども対象に含めたものととらえることが一般的です。

・通院慰謝料の算定について

交通事故の被害にあったときに,それにより生じる弊害は,人それぞれです。事故の時にどれだけ痛い思いをしたのか,通勤がどれだけ苦しかったか,ギプスをしての生活にどれだけ苦労したか,痛みで夜寝れないことや,勤務先の同僚に迷惑をかけて白い目で見られたり,家族に迷惑をかけることが心苦しかったり・・・。本来であれば,その一つ一つの苦しみ(=精神的苦痛)がいくらの損害なのか,金額を算定し,加害者や加害者加入の保険会社に賠償させるというのが筋ではあります。

しかし,日々発生している交通事故一件一件について,そのような個別の細かい算定は,現実的には不可能です。すべての事故につき,個別の細かい事情をくみ取って計算していくとなると,賠償額の算定に時間がかかりすぎてしまい,被害者がなかなかお金を受け取れないという事態も想定されます。

そこで,人それぞれ色々な苦しみがあるのは分かっているが,それはさておき,慰謝料の計算としては,通院した期間を根拠にして,画一的に慰謝料計算をしてしまおうということで,裁判所を含めて,実務が回っているのというのが実情です。

「どれだけ痛い思いをしたか」などという個別の事情は,「治療終了までの期間がどれくらいの長さであったか」という要素で,ざっくりと考慮することにしてしまうということになります。

被害者としても,いつまでたっても金額すら決まらず,お金がいつ受け取れるのか分からないというような事態を回避するという点ではメリットのある手法です。

かなり特殊なケースの場合は,被害額を別途検討したりもしますが,多くの交通事故では,個別具体的な事情は,そこまで大々的には金額に反映させず,おまけ程度に加味されるかどうかというレベルの要素になっています。

・通院慰謝料にも基準が複数あるというのはなぜ

その通院慰謝料にも「裁判基準(弁護士基準)」,「任意基準」,「自賠責基準」などという基準があります。同じ事故にあったのに,支払い基準(=支払額)が変わる,これはなぜでしょうか。

「自賠責基準」とは,自賠責保険から支払われる金額の基準です。被害者側からすると,加害者側が任意保険に入っておらず,自賠責保険にしか入っていなかったとき,加害者側の保険から受け取れるのは,この自賠責保険の基準に沿った額だけとなってしまいます。

「任意基準」とは,任意保険会社独自の通院慰謝料の基準です。各保険会社ごとに,「このくらいの通院期間ならば,このくらいの額」と,独自に決めています。

「裁判基準(弁護士基準)」とは,裁判を提起して,被害者側の要求が理想的に通った場合の額,保険会社からすると裁判で完敗したときの基準というところでしょうか。

この三つの基準では,「裁判基準(弁護士基準)」,「任意基準」,「自賠責基準」の順で高額となります。

このうちの「自賠責基準」については,国家の政策という要素もあって,無保険車と事故をしてしまっても,最低限これくらいは保証を受け取れるようにしようというようなものなので,これはあくまでも政策的に決められた最低限の基準ということになります。

問題は「任意基準」というものの存在です。同じ治療期間のケガを負わされたのに,受け取る慰謝料の額が違うということの根本的な原因は,保険会社が裁判所が認めるような額をすんなり支払わず,自分たちで決めた基準(=任意基準)などを持ちだして,少しでも低い支払額で済ませてしまおうとしていることにあります。

保険会社が,全ての事故について,裁判で完敗したときくらいの通院慰謝料を払ってくれるのであれば,慰謝料の不公平などというものは生まれません。ただ,保険会社も営利を追求する企業である以上,できる限り支出を抑えるという方向に動くのは致し方ないところでもあります。

裁判で完敗したときの基準では支払えないが,だからといって,すべての事故で被害者と真っ向から裁判でやりあうというのは,手間も費用も掛かりすぎる。それなら,ある程度のところまでなら支払う,その基準が「任意基準」ともいえます。

通常,事故の治療が終わり,保険会社と示談の話になって,弁護士がついていない段階で,保険会社が提示してくる金額は,「任意基準」に則ったものであるケースが大半でしょう。

「弁護士が入ると,慰謝料が増額するというのはなぜ」という点については,

慰謝料増額のからくり」でお話しします。

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